北欧は随分前から高福祉国家として知られてきましたが、最近になって、性の平等でも少しずつ知られるようになってきました。オランダや英国、フランスなどは世界の基準から見れば、このどちらの領域でも高い数字を示していますが、北欧諸国は他のヨーロッパと比べても、福祉と性の平等の両方において世界でもトップクラスです。北欧でこの両方が高いのは、単なる偶然でしょうか。福祉と男女平等の関係は何でしょうか。
北欧の性の平等についての政策は、まず何よりも家族のための政策と結びついています。家族の政策とは、つまり福祉政策です。父親だけでなく母親も仕事ができること、それに伴い保育所などの施設の充実化が重要なポイントとなっています。また怪我や病気のために仕事を休んでも、国の保証があるということなどがポイントです。
昔から家族の誰かが病気になると、世話をするのは多くの場合女性でしたし、これからも大きな変化はないかもしれません。もし女性が家族の世話のために仕事を休んでも、補償がもらえることは、女性だけでなく家族全員に大切なことです。また夫だけが仕事をしている場合もあるでしょうし、その夫が病気で仕事ができなくなったら、それを補う補償が必要です。
北欧では1960年代から特に女性の就労について、重きが置かれるようになり、それに伴い子どもや老人のための福祉も、国家を通して保証されるようになりました。
社会を変えるには政治を変えることが必須である
いくら女性たちが集まってデモを行ったりしても、肝心の政治自体が変わらなければ、効果はありません。女性の権利を向上させるには、男性と同じ権利が必要です。そのためにはこれらの事項がポイントになってきます。
- 女性普通参政権の獲得(選挙権と被選挙権)
- 女性も男性と同じように国会や地方自治で活躍できること
- 法律の改正と執行
19世紀からノルウェーでは、男性政治家が国会ですでに女性参政権の法律案を発表したり、またイギリスのような暴力的な行動の代わりに、ノルウェー女性たちは平和的なロビー活動をして、政治家一人ひとりに話しかけたり、手紙を書いたり、また署名運動など様々な活動をしました。例えば女性参政権については、国会で三度も否決されましたが、女性たちは決して諦めませんでした。ちなみにノルウェー女性が被選挙権を獲得したのは1907年でした。そして19世紀後期からの活動の後、ついに1913年6月11日、女性普通参政権が満場一致で可決されました。この時期にはすでに男性国会議員の間でも、女性普通参政権は当然という空気が漂っていたそうです。
ちなみに北欧五カ国で初めて女性首相が誕生した年は、次の通りです。(カッコ内はその後の女性首相が出た年)
- デンマーク 2011年 (2019-)
- フィンランド 2003年 (2010, 2019-)
- アイスランド 2009年 (2017-)
- ノルウェー 1981年 (1986, 1990, 2013 & 2019-)
- スウェーデン まだなし
女性が政治に直接関わり、社会を変えていくことができるということを、証明して見せたのが、例えば中絶についてです。中絶の権利は女性の政治参加にとって、昔から非常に大事なテーマでした。20世紀初頭では、カッティー・アンケー・モッラーが、ノルウェーで初めて中絶の権利について訴え始めました。そしてノルウェー最初の女性首相、ブルントラン氏は医師で、中絶の権利のために何年も訴え続けていました。そして1974年国会で中絶に関する問いかけをし、それが政治家だけでなく、記者や一般国民を巻き込み、国中で物議を醸しました。男性議員から中傷を受けながらも、ブルントランドは負けずに活動し続け、次第にサポートを受けるようになり、ついに1978年に中絶の権利が議決されました。
北欧の性の平等で特に大事な2つのポイント
現在の北欧において性の平等に関する大事な2つのポイントは何でしょうか。それは次の事柄です。
- 両親の育児休暇
- 保育所設備
北欧では多少の差はあれ、両親が交代で育児休暇をとることができます。子どもは母親だけではなく、父親も必要です(同性婚のカップルの場合もありますが、ここではヘテロセクシャルの両親について記述します。同性婚の記事は別の記事で記述)。また父親も育児に関わることで、子どもへの理解が向上し、同時に職場でも良い影響を与えるでしょう。より多くの父親が育児参加することにより、子どものいる同僚の気持ちや大変さが理解できるようになり、職場の雰囲気自体も変わってきます。
また保育所の充実は、特に女性の就業率に大きく影響します。北欧での保育所施設の普及については、0歳から2歳までは約30%〜65%です。3歳から5歳までは、フィンランドでは約75%で、その他の北欧ではどの国も約95%という高い数値が出ています。
ノルウェーにおける性の平等についての法律公布(一部)
- 1911年 アンナ・ログスタドが女性で初めて国会議員に(副議員)
- 1913年 男女普通参政権
- 1915年 カストベルグ子ども法(シングルマザーと婚外子の権利)
- 1922年 女性が初めて大臣へ登用
- 1978年 中絶の権利
- 1978年 男女平等法
- 1982年 両親共に育児の義務を課す法律
- 2015年 国防軍隊加入における男女平等
まとめ
これで少しは北欧の高福祉と性の平等の関係がお分かりになったでしょうか。性の平等抜きには高福祉国家はあり得ないのです。女性が政界に入り、少しずつその数が増え、法律を変えていきました。前述したように、子どもや老人、障害者などの家族の世話をするのは、ほとんどの場合女性であり、女性の権利のための改革をして行った結果が、高福祉国家となったのです。そのために、女性が政界に入るということが大変重要だと言えるでしょう。一つ大切なことがあります。それは、ノルウェーでの女性運動は、平和的なノンバイオレンスということです。
日本も、少しずつ変化していくことを、心から望むばかりです。