イスラム教と女性

日本におけるイスラム教は、日本ムスリム協会が1952年に成立してから現在十万から二十万人ほどの会員がいるそうだが、日本でどれほどの人がイスラム教についての知識を持っているのは、定かではない。ましてや日本の教育における宗教は、米国と同じように非宗教的教育を謳っているためにきちんと教えていない。したがってほとんどの日本人は正確な知識を持っていないのではないのだろうか。誤解のないように申し上げるが、ここで教育問題を論ずるつもりはなく、最近ノルウェーにおけるイスラム教徒と平等についての大きなニュースがあったことを、紹介するだけである。ただ本題に入る前にイスラム教の基本的な事柄について少し触れておく必要がある。

ご存知の人もあるだろうが、テロリストグループのタリバンが落ちるまで、例えばアフガニスタンでは、すべての女性は公共の場においてブルカと呼ばれる身体と頭と顔全体をすっぽり包むものを、身につけていなければならなかった。現在でも中東始め、アフリカ北部、東南アジア諸国などで身につけている女性は多いそうだ。

さて本題に戻るが、現在ノルウェーには141,000(2015年)人ほどがイスラム教徒として登録している。ノルウェーの人口は約5百万で、そのうちの2.82%がイスラム教徒という計算になる。もちろんすべてのイスラム教徒の女性が写真のような服装をしているわけではないが、女性差別であるとの批判をされていることも事実である。そのために各国で禁止になっている。ノルウェーではまだ禁止になってはいないが、最近ノルウェー・ムスリム評議会では新規に通信顧問を採用したのだが、なんと目だけを見せ、残りはブルカと同じようにつま先まですっぽり覆うニカブをつけている女性だったのだ。

Leyla Hasic, Nikab

ノルウェー・ムスリム評議会の新しい通信顧問ライラ・ハシク

このニュースが報道されると、次々に反発する声が出たのは言うまでもない。評議会に加わるいくつかのイスラム教系の団体も、これに抗議して脱会したり、ニカブを使用していないイスラム系の女性たちも抗議した。一方、評議会自体からは「ニカブをかぶっているから採用したのではない。彼女が一番適任者だったからだ。」と反論が出た。

ノルウェー・ムスリム評議会の通信顧問というのは、ムスリムとイスラム教徒以外の団体などとの連絡係となる重要な役割を果たす。少しずつ増えてきているイスラム教徒に対して様々な意見があり、特に女性差別の面でも論議を呼ぶことが多いのだが、そこに来て女性差別と理解されることが特に多い、ブルカやニカブを使用している女性を採用するというのは、果たして本当に偶然に採用になったのだろうか。それとも評議会からのノルウェー多数派社会へ対する挑戦ということか。

何れにしても、女性が肌を見せることを禁止し、見るからに動きにくそうな被り物をつけて公共の場に出なければならないというのは、女性差別や女性蔑視以外の何物でもないと言えるだろう。公共の場で肌を見せることを禁止するということは、つまり男性が性的な意味で女性を見ないよう防止するためである。とは言っても、家の中で家族や他の女性の前では使用する必要はない。しかしながら、同性愛の女性も存在するし、ヌードではなく覆い隠すということに性的興奮を覚える男性も、少しは存在するとは思うし、何よりもゲイ男性が被り物を被っていない男性に興奮しないのだろうか。性的マイノリティーの人は、社会の中で3〜5%は存在するという報告があるのだが、そのような例外は全く考慮されていないようである。

要するに、女性は家族以外の男性の前ではセクシーな格好をしてはいけないということなのだが、多くの国の男性のほとんどは常識があり、セクシーな女性を見たからといってレイプしたりセクハラをすることは普通は起こらないだろう。もちろん時間帯や場所にもよるが、ノルウェーや日本などでは普段女性が一人で外出したりしても危険が伴うことはない。

ところが女性の被り物を法的に定めている国では、女性が親の許可なしに結婚したり相手を見つけたりすることも禁じられていることが多い。もし発覚した場合は父親か兄弟など男性の近親者から殺されることも珍しくないのだ。またレイプされた場合でも、家の名誉を汚したと称して殺されてしまう。レイプされた側は被害者で、心身ともに深く傷ついているはずだが、心の傷を癒すどころか殺される恐怖に怯えなければならないのだ。娘や姉妹を殺した当の男性軍は刑を免れることも珍しくない。パキスタンではようやく昨年秋に、名誉のための殺人が罪として扱われることになったが、それ以前では娘や姉妹を名誉毀損のために殺しても、罪に問われることはなかったという。

だいたいなぜ女性が一人で外出したり、他の男性と仕事や学業などで会ったりしてはいけないのか。もちろんそのために浮気が発生することも時として起こるが、うまく行っているカップルなら信頼関係ができているはずである。ということはつまりイスラム社会では、男女の信頼関係がお粗末であると言えるのかもしれない。

ムスリムのかぶり物に関する議論はとどまることがない。何年か前の国際女性デーでは、首都オスロでイスラム女性がヒジャブという髪の毛だけを覆う被り物を脱ぎ捨て、火をつけて燃やしたことがあった。一部の男性から雪の玉が投げられたが、彼女はめげなかった。一方自分の権利としてヒジャブを誇りに思う女性たちは、どんなにメディアで叩かれようと、ヒジャブを公共の場で堂々と使用して歩いている。私はムスリムでないので理解しにくいのだが、ヒジャブぐらいだったら気にならない。ヒジャブ姿の大学教授始め学生も見かけるし、お店のレジなどでも見かける。

それではスポーツ活動においてはどうなのか。少し前までは、ヒジャブ姿の女性がトレーニングをしている姿を見ることは、ほとんどなかったように思える。それでも最近は、女性だけのジムなどで見かけるようになったという。トレーニングジムの中には女性だけのジム室を設けているところもあり、そのおかげで普段ヒジャブをしている人もヒジャブを脱ぎ捨てて、他の人と同じようにトレーニングタイツを履いてトレーニングに勤しんでいるということだ。カメラを向けられた時は流石にヒジャブをつけるそうだが。また所によっては、ガラス張りのために廊下から室内が見えるところもあるそうだが、そのようなところではヒジャブをつけてトレーニングしているということだ。

ということは、いくら自分の自由意志でヒジャブをつけていても、結局非活動的だと認めていることになる。ある学校で生徒たちの発表会が行われた時、ヒジャブ姿で他の子供たちと一緒に、ダンスを披露していた中学生を見かけたが、さすがにヒジャブが邪魔で踊りにくそうだったのが、他の子と比べてよくわかった。だいたいヒジャブ姿の女性は多くの場合、靴が見えるか見えないくらいの長いスカートを履いている。ムスリム女性だって運動する権利はあるだろうに、軽い散歩以外の激しいスポーツはさすがにやりにくいのだろう。気の毒に思えて仕方がないというのは私だけだろうか。

そのためだろう、ブルキニというビキニならぬブルカの水着版というのが登場した。これだったらムスリム女性もセクシーな格好にならずに水泳ができるというものである。でも衣類というのは、普通水に濡れると身体にぴったりくっついてしまうのではないか。そうなれば却ってビキニよりセクシーになってしまうかもしれない・・・?

別の議論では、被り物をつけていては太陽の光を浴びてビタミン補給ができない、というものがある。ノルウェーはアラスカとほぼ同じ緯度に位置しているために、夏はほぼ丸一日太陽が出ていて、逆に冬ではほとんど一日中真っ暗になる。昔から肝油というものが日本でもあり、ビタミンD補給のために飲んでいたし、現在でも子供に飲ませるようだが、ノルウェーでもトランという肝油を一日大さじ一杯飲むことがノルウェー厚生省から勧められている。ほとんどの人は夏になれば多少は日光浴をして、ビタミンD補給ができるのだが、被り物を被っている女性たちは一年中外では太陽の光を浴びることができない。そのためにノルウェー国勢調査によると、移民の女性(その多くはムスリム系の人)は特にビタミンD不足の人が多いという報告が出ている。

何れにしても、被り物を被っている女性たちが口を揃えて主張しているのは、『女性解放』や『自由』ということである。同時にイスラム女性に目を光らせている『イスラム風紀委員』なるものも存在し、例えばこのブログで紹介しているソマリア出身のアマル・アデンがオスロで受けたように、『風紀委員』からセクハラを受けるイスラム女性も存在することは事実である。セクハラを受けるために被り物を使用している女性も多かれ少なかれいるのではないか。ノルウェーという自由な国に住んでいるというのに、他人からなぜある特定の服装を強いられなくてはならないのだろうか。他の女性たちが全く自由な服装をして街中を闊歩している中、イスラム女性だけが『イスラム風紀委員』から監視されている。また多くの場合そのような風紀委員は、イスラム教徒がムスリム以外の人と接触することも制限するようである。

人はそれぞれ違う意見を持っているし、これからもイスラム社会の女性の被り物に関する論議は続くだろう。私自身、ヒジャブに関して様々な論文や記事を読んでみてはいるが、未だに女性の自由や解放にヒジャブがどれだけ貢献しているのか、疑問が消えない。もし社会の全ての人が平等な概念を持ち、それに伴ってお互いを性別でなく一人の人間として敬えば、真の平等な社会になるのではないだろうか。そうなれば、女性だけでなく男性も被り物をつけるべきである。

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